「論理療法」入門 ―― 人生は厳しい でも幸せにはなれる

本の紹介

心理療法のひとつ「論理療法」を提唱したアルバート・エリスが一般の人に向けて書いた指南書。認知度はアーロン・ベックが提唱した「認知療法」の方が高いですが、共通する部分も多く、ともに現在の「認知行動療法」の基礎を築いたとも言われています。

「論理療法」は一通り学んだんですが、あらためて興味がわき読みました。

なんせ表紙がいい!
写真のおばあちゃんの笑顔と、このタイトルがめちゃくちゃ合ってる!!

やっぱり、何を言ったかより、誰が言ったかの方が相手に与える影響が大きいですね。表紙を見て「これ、いいな」と素直に思いました。

「論理療法」と「認知療法」について

どちらも出来事に対する信念や考え、捉え方が精神に影響を与える、と考える。同じ出来事でも、ポジティブ(またはニュートラル)に捉えることができれば後に残らないが、逆にネガティブな出来事だと捉えてしまうと精神的なダメージとなってしまう。不安や心配を感じやすい人,うつになる人は物事をネガティブに捉えてしまいやすい傾向にある。なので、自分の物事に対する考え方や捉え方、思い込みを検証し、健全なものへと修正するようにアプローチする。

ちなみに、提唱者の共通点として、どちらも精神分析を学んだうえで精神分析を批判し、それぞれの心理療法を構築、提唱したという経緯があります。

違いについては、「論理療法」は不都合な出来事(逆境)に対する信念(考え、捉え方、意味付け、思い込み)に「反論」することを重視しているように思います。知られているものにABC理論があります。

Adversity:逆境
Beliefs:信念
Consequences:結果

A→B→Cの連結において,例えば、SNSにアップしたけど「いいね」やフォローがもらえない(A)→自分は他の人よりも魅力に劣っている(B)→自信喪失、思考力低下、悲しい(C)となる。まずA(逆境)があり、それに対するB(信念、考え、感情、捉え方、意味づけ)によって、C(情緒的、行動的な結果)が変わる。ネアティブなCを健全なものに変えるには、自身が持っているBの修正が欠かせない。

そこで必要なのが、BへのDisputing(自己反論)。自分を追い込んでしまう,過去のネガティブな体験と繋げてしまう、つい自分を卑下してしまう、否定的に捉えてしまう――不都合な出来事(逆境)に対して瞬時に生まれる思考、その思考が妥当なものだとする信念(思い込み)に気づき
・現実的に
・合理的に
・実利的に
「反論」する

コツとしては、根底にある「〜であるべきだ」「~であければならない」という信念――例で言えば「私は他の人と同等以上の魅力を持っているべきだ」だから「同じように評価をもらわなければならない」――を、「〜だといいな」といった好みや願望,希望に変えていく。

(旧B)自分は他の人よりも魅力に劣っている
         ↓
(新B)評価をもらえればいいな
だから、気にせずどんどんアップしよう
だから、評価されるネタを研究しよう
だから、写真の撮り方を変えてみよう
いっそ「いいね」とフォローを買おう
もしくは、自分には向いてないからSNSをやめよう、なんてのもありでしょう。

「こうあるべき」を「こうならいいな」へと修正できれば、不都合な出来事も柔軟に捉えられるようになる。新たな結果、 Effective(効果的な、新しい考え方)を得られる。そこから「ABCDE理論」なんて言い方もされます。

ひとつの失敗が自分の人間性の欠陥からくるものだ――と、大きく捉えてしまいがちなのが、うつになりやすい人の特徴のひとつ。こういう思考に陥ると,その信念を裏付ける過去の失敗を自分で探し出してしまい、「なんで失敗したんだろう?」と考えるのではなく「なんで自分はダメなんだ…」と悩んでしまう。

「悩み」は答えが出ず、グルグルと抜け出しにくい。一方で、「考え」であれば解決の糸口が見つかりやすい。

解決しにくい自分の人間性という漠然とした「悩み」から,不都合な出来事を解決する具体的な「考え」に焦点を変える。

自分をネガティブな感情や精神状態にしてしまう思考(思い込み)に、「論理的」に対峙する、それが「論理療法」。

ピンときた人にはもちろん、認知行動療法をより深く理解したい人にもおすすめの一冊です。

現実は厳しい でも幸せにはなれる 目次
1.性格ではなく、考え方を変える
ロザリンドはどうしてよくなったか?/読者にもできます!/本当に自分を変えられるのか?/壊れにくい自分をつくる/どうやって自分を幸せにするか? /完璧な人なんてありえない。でも…… /精神分析療法でできなかったこと
2.あなたを悩ませる「思い込み」を見つけ、反論し、打破する
3.あなたを変えるABC理論
論理療法とは?/大事なのは考え方
4.やればできる──自己変革5つの発想
自己変革の発想 その1
「自分を不幸にさせているのは主に自分である。だから自分の不幸を止めることも自分でできる。絶対にできる」
自己変革の発想 その2
「自分の間違った思い込みは、自分で変えることができる」
自己変革の発想 その3
「人は明らかに誤りをおかすことがあり、自分を簡単に不幸に落とし入れてしまう。けれども、同時に人は自分の思考、感情、行動を変えることで、自分の不幸を減らすこともできる」
自己変革の発想 その4
「情緒的動揺は、自分の思考、感情、行動で変えることができる」
自己変革の発想 その5
「気持ちの動揺を減らすためには、継続的な努力が必要である」
5.「壊れにくい自分」をつくる方法
意志力の力/喪失はこの世の終わり……本当?/論理的になるために
6.自分を受け入れ、他人も受け入れる
自己変革への現実的な強い期待/無条件の自己受容/他者を無条件で受け入れる
7.最悪だ! 自分には耐えられない!
「耐えられない」症候群/一般化のしすぎとレッテル貼りを避ける
8.最悪の場合、どんなことが起こるだろう?
最悪の事態が生じる可能性を受け止めること/もう、「泣き言」は言わない! /「できない主義」を根絶する/「できない主義」を打破するための七つのステップ/心の動揺を予防する/中庸とバランスと結論の保留/魔法のような解決策は考えない/逆境が与える試練を受けて立つ
9.動揺しにくくなるための「考え方」
自分の自滅的で非合理的な考えを見つけ出す/自滅的な非合理的考えに反論する /合理的に対処する自己声明をつくる/ポジティブ・イメージ法と視覚化/比較や損得分析を行う/セルフ・ヘルプ用紙への記入/友人や家族に論理療法を教える/モデリング(観察学習)/一般化しすぎた言い方を避ける
10.他の方法の効用と限界
実用的問題解決法/問題解決志向のテクニック/自分の長所を生かしながら、超楽観主義は避ける/精神集中法/霊的・宗教的方法/精神分析の手法/自己効力感セラピー
11.自分を変えるための実践的方法
自己声明法/論理・感情的イメージ法/恥辱対策の練習/論理療法のロール・プレイ法/逆ロール・プレイ法/ユーモアがあなたを救う/情緒的動揺のABCを捉え直す/強制的反論法/逆説的介入法/サポート・グループ、自助グループ、ワークショップ
12.動揺しにくくなるための「行動のしかた」
非合理に恐れている行動をやってみる/強化法/刺激のコントロール/タイム・アウト法/スキル・トレーニング
13.自己実現と、より幸せになるために
自己実現の限界/自己実現のための目標例
14.まとめ──幸せは自分でつくる
自分だけの力で動揺しにくくなることはできるのか?/「治癒」に対する現実的な期待/セルフ・セラピーで達成した成果を維持・発展させる
15.頭と心に効く、「こころのチキンスープ」エリス風
訳者あとがき

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