精神療法の名人・神田橋先生と,先生の身体のケアをしている白柳女史の対談本「いのちはモビール」の全面改稿版。
いのちはモビールは以前読んで,「あらためて読もう」と思いつつ,どうにも手が伸びずにいました。興味深いことが語られているとわかっていましたが,なんというか「読みにくさ」があったから。今回は杉山登志郎先生との座談会も載っていることもあり購入。読むのが2回目ということもありますが,ずいぶん読みやすくなった印象です。
神田橋先生は白柳さんと出会い「自然治癒力は,〈とりあえず折り合いをつける〉作業である」という考えを得たという。白柳さんは神田橋先生の「発達障害は治りますか」を読み手紙を書いたエピソードを紹介しています。
そんな2人の対談本。
読みどころは多数ありますが,白柳さんが神田橋先生に患者の診方,基準についてトコトン質問する,食い下がるのが本書の特徴です。いのちはモビールを読んだときには,ずいぶんしつこい印象を持ったんですが,読むにつれて「僕自身が神田橋先生の本でもっとくわしく知りたいと思っていたことを訊いている」と気づきました。
対談の感じがよく出ていると思うところを,少し長いですが引用します。
白柳
やっぱり手引書を作られてないからですよ!一回二回陪席しただけでは,どういう基準で,つまり愛着障害。発達障害の有無・程度と,そこに透かし紙みたいに重なってくる両親・兄弟・友だちの状態と,それに沿おうとする当人のがんばりとそこにかかる無理,というような先生がされる状況の読み方は――
神田橋
それ,全部書いているんだけどなあ。
白柳
書いてないと思います。
神田橋
「生来の気質と早期の学習によって,素質ができている。その資質に,今度は適応障害によって病態が完成されていく」
白柳
その書き言葉は全然平易じゃないです。
神田橋
そうだねぇ…。ボクは本質的に理屈っぽいんだよね。だから書き言葉になるとやたら輪郭が明確な言葉を使おうとする。類似辞典なんか引いて(笑)
発達障害には「麻の実ナッツ」や「ビタミンB6」が効く(?)や「抱え」と「揺さぶり」,こころとからだ――別のものであり分けられないもの――について精神科医と整体師それぞれの視点から語り合う。白柳さんは自身が納得するまで質問し,神田橋先生も整体屋との違いを楽しんでいます。
個人的にはkindle版がないのが残念ですが,神田橋先生の術の根本を知ることができる一冊です。
第一部 神田橋先生の診療技法のまとめ
1. 技術を文字で残すこと/相手に沿った話し方/発達障害は発達する
2. 白柳が〈癒着を剥がす整体〉にたどり着くまで/筋力検査について/自然治癒力を考え直す/トラウマ・PTSDと整体/心身不二を立て直す
3. 神田橋の言葉の定義(発達障害・双極性障害・愛着障害・適応障害)/フラッシュバック/〈抱え〉と〈揺さぶり〉/診察の場でしていること・目指すこと/面接の経験を蓄積する/精神科の対話と整体の施術/音声言語と文字言語/心と身体と言語といのち/生体の声を聞く
4. 抱えと揺さぶり,学習と適応障害/〈溜める自分〉と〈動きたい自分〉/〈抱え〉と〈揺さぶり〉,〈抱えられ〉と〈揺さぶられ〉/言葉の力で生き方の癖をほどく/作業を〈分担〉することで受け手と施術を共有する
白柳さんのプリントに対する反応
白柳の整体について
第二部 座談会 出たとこ勝負の対話技術
易しいリラクセーション法
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