心理師(士)は、絶対読んでおけ!
心的外傷と回復のジュディス・ハーマン、マインドフルネスストレス低減法のジョン・カバットジン、EMDRのフランシーン・シャピロ、脳はいかに治療をもたらすかのノーマン・ドイジ、そして、解説に杉山登志郎先生と錚々たる顔ぶれが賛辞を送る。
もう5回くらい読んだだろうか。今回ブログに書くために線を引いていた箇所をチェックしていたら、いつの間にか文章全部を読んでいた。読むたびに発見があり、あらたに線を引く。以前はなかったKindle版もでており、いつでも読めるようにこっちも購入しようかと本気で迷っています。
著者は米国トラウマセンターの創設者であり、トラウマ治療の第一人者。
ベトナム帰還兵との出会いから始まり、性的虐待、レイプ被害者など、著者がこれまでに行ってきたトラウマの治療が自伝的に書かれています。重く暗くなりすぎず、専門的だけど難しすぎず、分厚いけど最後まで読み応えがあるのは、膨大な知識はもちろんのこと、著者の患者に対する真摯さと探究心からくるんでしょう。
トラウマケアに関して、著者は基本的に3つの方法があるとしている。
1、他者と話し、(再び)つながり、トラウマの記憶を処理しながら、自分に何が起こっているのかを知って理解するというトップダウンの方法
2、不適切な警告反応を抑制する薬を服用したり、脳が情報をまとめる方法を変えるような他の技術を利用したりする方法
3、トラウマに起因する無力感や憤激、虚脱状態とは相容れない体の芯から感じられる体験をするボトムアップの方法
回復の核となるのは「自己認識」。
トラウマ体験によって引き裂かれ、支配された心と身体を、自分のものだと取り戻す。そのために、自分の心と身体の「感覚を自覚する力を養う」ことが重要な課題だと語る。
よく言われるトラウマの治療方法に、トラウマ体験を思い出し言葉にする、というのがある。しかし、著者はトラウマやそれにまつわる感情を思い出してもトラウマの解消にはならないと指摘する。
過去の記憶に圧倒されず、現在に留まれる術を身に付ける。
その鍵となるのが脳と身体、両方を調整すること。それには、脳から身体(トップダウン)、身体から脳(ボトムアップ)の2つのルートがある。
この2つのルートを理解するのに助けとなるのが、ステファン・W・ポージェスが提唱した「ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)」。脳や肺、心臓、胃、腸など多数の器官をつなぐ迷走神経の束が、心と身体の調整に大きく関わっているという。
具体的な方法として、ボトムアップの方法に、呼吸法をはじめヨガ、武道、演劇、ダンスを挙げ、トップダウンの方法に、マインドフルネスやニューロフィードバック、EMDR、内的家族システム療法(自我状態療法)、PBSP療法を著者自身が体験し、本書で紹介している。
とはいえ、著者は「トラウマに『選り抜きの治療法』はない」と言い、患者によって効果があるもの(やってみないとわからない)を組み合わせて治療を行なっているという。
他にも、薬物療法や認知行動療法の効果、フロイトやジャネといった歴代の療法家の提言、トラウマを負った脳画像、複雑性PTSDと発達性トラウマ障害をDSMに記載するよう働きかけ拒否された経緯、セラピストとしての心構えなど、読みどころは数え切れない。
日本でのトラウマ治療の第一人者である杉山登志郎先生は、臨床の中での疑問や問題に明確な回答を与えられ、視野が何倍にも広がったと語る。
カウンセリングをしていれば、何かしらのトラウマを負った人といつか必ず出会う。
だからこそ、あらためて言いたい。
心理師(士)なら、絶対読んでおけ。
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